・環境政策講座
小清水宏如(こしみず ひろゆき)
環境政策最前線!ホットな環境政策を特集する…
第21回 景観緑三法(けいかんりょくさんぽう)
問題25 次の記述のうち、正しいものを1つ選んでみましょう。
(a) 景観法は明治時代に作られたことがあった。
(b) 景観法の主務官庁は環境省である。
(c) 良好な景観の形成のための業務を適切に行う景観整備機構に景観行政団体はNPO法人も指定できるようになった。
(d) 景観緑三法のひとつに「自然公園法等の一部を改正する法律」がある。
○美しい国づくり政策大綱
日本は、四季の変化に富み、水と緑豊かな美しい自然景観・風景に恵まれています。また、地域の歴史や文化に根ざした街なみ、建造物等が各地に残されており、それらの美しさ、価値が再発見され、保全や復元の取り組みが各地で見られます。
その一方で、経済性、効率性、機能性を重視したために、国土づくり・まちづくりにおいて、美しさへの配慮を欠いた雑然とした景観、無個性・画一的な景観等が各地で見られるようになり、国立マンション事件等のような眺望・景観をめぐる紛争が各地で発生するようになってきました。
このような現状に対応すべく、地域独自の条例を定め、良好な景観形成のための事業や規制・誘導策に取り組む地方公共団体がでてくるようになりました。(全国市町村の約15%、全国都道府県の約57%が景観条例を制定)
そこで、地域の個性を重視しつつ、地域ごとの状況に応じた取り組みの考え方や各主体の役割と連携を示し、美しい国づくりのための基本的考え方と国土交通省のとるべき具体的な施策について記述された「美しい国づくり政策大綱」が2003年(平成15年)7月に国土交通省から出されました。
○具体的施策
「美しい国づくり政策大綱」に掲載されているいくつかの具体的施策を紹介します。
①公共事業における景観アセスメント(景観評価)システムの確立
事業の実施主体が、必要に応じて構想段階、計画段階、設計段階など事業の実施前や事業完了後といった事業の各段階において、既存の制度に景観を評価の項目として織り込むことなどによって、事業実施により形成される景観に対し、多様な意見を聴取しつつ、評価を行い、事業案に反映する仕組みを確立する。
②景観アドバイザー
景観評価に当たり、専門的な立場から指導・助言する「景観アドバイザー」を地域(地方整備局等毎)の実情に精通した公平な立場にある学識経験者等のうちから任命する。
③分野ごとの景観形成ガイドラインの策定等
事後評価結果については、データベースに整理し、今後の景観検討や評価に活用する。
④屋外広告物制度の充実等
⑤保全すべき景観資源データベースの構築
などがあります。
○景観緑三法
この施策をより具体的に実現させるためのひとつの手段として、景観緑三法がつくられました。
景観緑三法とは、「景観法」「景観法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」「都市緑地保全法等の一部を改正する法律」の3つを総称するものです。景観緑三法は、一部(景観法の第三章<景観地区等>の規定)を除いて、2004年(平成16年)12月17日に施行されました。
☆景観法
都市、農山漁村等における良好な景観の形成を図るため、良好な景観の形成に関する基本理念及び国等の責務を定めるとともに、景観計画の策定、景観計画区域、景観地区等における良好な景観の形成のための規制、景観整備機構による支援等を定め日本で初めての景観についての総合的な法律です。
<主な概要>
・景観行政団体(都道府県、指定都市等又は都道府県知事と協議して景観行政をつかさどる市町村をいいます。)が景観計画を策定します。景観計画は、後ででてくる景観地区とは違って届出や勧告によるゆるやかな規制誘導策です。なお、住民等もこの景観計画の提案をすることができます。
・景観行政団体は、良好な景観形成のための業務を適切に行う景観整備機構に公益法人やNPO法人を指定することができます。また、景観計画区域内における良好な景観の形成を図るための協議を行うため、景観行政団体等は景観協議会を組織することができることとし、景観協議会で協議が整った事項については尊重しなければなりません。
・景観計画区域内の建築物等の建築等に関して届出・勧告による規制を行うとともに、景観行政団体の長は、必要な場合に建築物等の形態又は色彩その他の意匠(形態意匠)に関する変更命令を出すことができます。
・景観計画区域内の景観上重要な建造物を「景観重要建造物」として指定するとともに、その現状変更には景観行政団体の長の許可が必要となります。また、景観整備機構が管理協定を締結し、景観重要建造物の管理をすることができるようになります。景観計画に定められた道路、河川等の景観重要公共施設については、景観計画に即して整備することとし、景観計画に定める基準を景観重要公共施設の許可の基準に追加できるようにもなります。
・景観計画区域内の土地の所有者等は、景観協定(承継効あり)を締結することができるようになります。
・市町村は、市街地の良好な景観を形成するため、都市計画に、建築物の形態意匠の制限等を定める景観地区を定めることができます。景観地区は、より積極的に景観形成を誘導していくための施策です。景観地区内で建築物の建築等をしようとする者は、当該建築物の形態意匠が景観地区の都市計画で定める建築物の形態意匠の制限に適合することについて市町村長の認定を受けなければなりません。
・市町村の条例でも、工作物の建設、開発行為等について必要な制限を定めることができるようになりました。また、市町村は、都市計画区域及び準都市計画区域外の景観計画区域において準景観地区を定めて、条例で、景観地区に準ずる制限を定めることができるようなります。
・自然公園法の特例として、景観計画に定める基準を国立公園又は国定公園に関する自然公園法の許可の基準に追加できることになりました。
・その他、建造物をそのまま残したいが、高額な相続税で取り壊しにせざるをえないといった問題に対応するための税制優遇策等も盛り込まれています。
残りの2つの法律は・・・
☆景観法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
景観法の施行に伴い、関係法律の整備が一括してなされました。例えば、都市計画法、屋外広告物法なのですが、中でも屋外広告物法の改正では、張り紙やたて看板などの屋外広告物に対する規制が強化されました。
☆都市緑地保全法等の一部を改正する法律
良好な都市環境の形成を図るため、都市における緑地保全・緑化や都市公園の整備を一層推進するために改正され、法律の名称も「都市緑地保全法」から「都市緑地法」に変わりました。
「緑地保全地域」においては建築の行為制限、「緑化地域」においては一定以上の大規模な建物の新築・増築に際しては、ある一定の緑化率規制をかける、ほかに、立体都市公園制度の創設等が盛り込まれました。これにより、緑化がさらに進むことになりそうです。
政省令が整備されてきて、今後どのように運用されていくのかをウォッチしていく必要があるでしょう。
なお、詳細は国土交通省景観ポータルサイト参照のこと
http://www.mlit.go.jp/keikan/keikan_portal.html
<前回の問題と回答・解説>
問題24 次のうちまだ世界遺産条約に登録されていないものを選んで見ましょう。
(a) 姫路城
(b) 原爆ドーム
(c) 屋久島
(d) 出雲大社
問題24について
答えはdの出雲大社です。
<続報とひとこと>
今回は条約シリーズの3回目にしようとしましたが、昨年12月に施行したばかりの「景観法」を特集しました。
良い景観とは何か?これは人それぞれによって違うものですが、最近、国立マンション事件や古都におけるビル建築を巡る裁判など各地で争いが発生するようになりました。景観権や眺望権なといった権利義務で規定してしまうのもいいのかもしれません。しかしながら、筆者は今回のこの法律で争いが起きないような事前の手続き的制度を確立することにより、日本の美しい風景、伝統ある歴史建造物等を保護していく方が現実的であり、その方が地域住民も主体的に自分の街の景観についても考えるきっかけになるのでは、と大いに賛同する次第です。
なにかご意見・ご感想などありましたら、連絡先:kosimizu@muf.biglobe.ne.jpへ。
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